藪(やぶ)そば、蒸篭(せいろ)そば~本来の意味②

そばと付くものには、いろいろありますが、そばに関する言葉をどれだけ正確にご存知ですか?
食品の偽装表示ではありませんが、田舎そば、生(き)そば、やぶそば、せいろそば・・・
なんて言うと、いかにも風流で、品質のよさそうなものに思えます。
でも、これらが本来意味するそばをご存知でしょうか?
現在ではこれらの言葉もほとんど形骸化し、本来の意味とは大きく違っています。

「藪(やぶ)そば」と「蒸篭(せいろ)そば」(もしくは「蒸籠(せいろ)そば」)の
本来の意味を解説します。

藪蕎麦(やぶそば):もともとは、藪そば発祥の店は、本郷根津の団子坂にあった「つたや(蔦屋)」だと言われています。この店の広い庭には竹藪が茂っていたことにより、当時のお客さんによって、「藪」の愛称で親しまれたことにあります。現在、店先に竹を植えるそば屋が多いのも、この「つたや」に習ったものと言えます。
「藪」ののれんは、明治には、つたやの支店であった神田連雀町の「かんだやぶそば」に、大正時代には浅草並木町の「並木藪蕎麦」に、昭和には上野池之端の「池之端藪蕎麦」にのれん分けされ、受け継がれてきました。
現在あちこちに点在する「藪蕎麦」を謳ったそば屋が点在しますが、ほとんど本来の「藪」ののれんとは繋がりはありません。
店先に竹を植えただけで、やぶそばを名乗る店も、少なくありません。

蒸篭(せいろ)そば:「せいろそば」、「ざるそば」、「盛りそば」は、現在では、冷たい夏のそばの代表的なメニューになっています。しかし、本来の「せいろそば」は、湯気の上がる温かいそばでした。

現在のようにつなぎに小麦粉を使わない、そば粉100%十割(じゅうわり)そばは、茹でると切れやすく、江戸時代には、今のように茹でることはありませんでした。そこで当時は麺にした「そば切り」をせいろ(蒸篭)で蒸し、そのまま客に出していました。「せいろ」に乗せて蒸したそばは、温かく、湯気が立っているのが普通でした。

江戸時代の旦那衆が酒の肴(さかな)にしていたというそばは、せいろで蒸したこの「蒸しせいろそば」のことでした。そばと木の香りで満ちた「せいろそば」の湯気を浴びながら呑む一杯は、昼間から呑まずにはいられないほど、格別の旨さではなかったかと思います。

天保年間に、そば屋はごぞって、そば代の16文からの値上げを、幕府に申請したことがありました。しかし、値上げが許されなかったことから、底に敷かれていた蒸篭のすのこを底上げし、そばを山盛りに見せて、客に出しました。これを「盛りせいろ」と呼びました。これが現在の「盛りそば」の始まりになりました。「盛りそば」は「せいろそば」の別名となり、現在も、「盛りそば」や「せいろそば」として、出している店もあります。

竹製のザルに盛った「ざるそば」が出回るようになったのは、享保の頃と言われています。みりんなどを使って味付けしたそばつゆだった「盛りそば」に対し、「ざるそば」は、そばつゆに砂糖を用いたそうです。江戸時代当時、まだ貴重品だった砂糖をつゆに用いた「ざるそば」を、「盛りそば」と区別するために、そばを盛る器を「ざる」にしたという説もあります。

「ざるそば」は、さらに、明治に入ると、高級品だった海苔をそばの上に乗せることで、「盛りそば」との違いを明確にしたと言われています。
現在は、つゆの違いはなくなり、「ざるそば」と「盛りそば」の違いは、海苔を散らしているかどうかだけの違いになりました。同じ「せいろ」に盛りつけたそばでも、海苔を乗せていれば「ざるそば」、乗っていないものを「盛りそば」と呼んでいる店もあります。値段は、今でも海苔が乗った「ざるそば」のほうが、少し高くなっています。

現在は、「せいろそば」も「盛りそば」も「ざるそば」も、すべて茹でたもので出されています。
「ざるそば」と「盛りそば」の違いが、海苔がかかっているか・いないかだけの違いなら、「ざるそば」と「せいろそば」の違いも、そばを盛る器がざるか・せいろかだけの違いになっています。
でも、本来「せいろそば」と言ったら、茹でずに、蒸したそばを言いました。現在では、蒸した温かい「せいろそば」を出す店は、器だけ「せいろ」の店と区別するために、わざわざ「蒸し蒸籠そば」と謳うようになっています。

「せいろそば」をメニューに名を連ねているそば屋はたくさんありますが、蒸した温かい本物の「せいろそば」を出してしているお店って、現在、どれぐらいあるのでしょうか?