生(き)そば、田舎そば~本来の意味①

そばと付くものには、いろいろありますが、
そばに関する言葉をどれだけ正確にご存知ですか?
食品の偽装表示ではありませんが、田舎そば、生(き)そば、やぶそば、せいろそば・・・なんて言うと、いかにも風流で、品質のよさそうなものに思えます。
でも、これらが本来意味するそばをご存知でしょうか?
現在ではこれらの言葉もほとんど形骸化し、本来の意味とは大きく違っています。

「生蕎麦(きそば)」「田舎そば」の本来の意味を解説します。
生蕎麦(きそば):そばのつなぎに小麦粉を使用する手法を伝えたのは、1624~44年江戸・寛永年間に、奈良・東大寺へ来た朝鮮僧侶、元珍とされています。それまでのそばは、100%そば粉でできたそばでした。
「生(き)そば」は、本来は、つなぎの小麦粉を混ぜずに、そば粉だけで作ったそばを言います。
少し範囲を広げても、そば屋で「生そば」の語が使われるのは、上等なそばをふんだんに使ったそばを意味するものでした。

しかし、江戸時代中期以降、小麦粉をつなぎとして使用し始めたことにより、小麦粉2割、そば粉8割からの配合による二八(にはち)そばが一般大衆化していきました。これに伴い、幕末の頃には「生そば」の意味の範囲も拡大し、二八そばにも使われるようになりました。「生そば」という言葉は、高級思考の店が品質のよさを強調するキャッチフレーズへと変化していきました。現在では、そば粉の割合が明らかに低いと思われる駅前の安い立ち食いそば店でも、のぼりに「生そば」の文字を堂々と掲げています。
そのため、つなぎに小麦粉を使わず、そば粉だけのそばを売り物にしている店は、「十割蕎麦(じゅうわりそば)」や「生粉(きこ)打ちそば」などの表現を用いるのが一般的になっています。現在では「生そば」の意味はすっかり形骸化してしまっていると言えます。

なお、茹でて水分を多く含んだ麺に対して、「茹でる前の生麺」も「生そば」と表記されますが、この場合の読み方は「きそば」ではなく「なまそば」と言うことになります。

田舎そば:都会人が「田舎そば」と聞くと、普段食べられないローカルで、ノスタルジックで味わいを想像して、それだけで食指が湧いてしまうものです。そうした人の心に付け込むかのように、あちこちに「田舎そば」の看板やのぼり旗を見かけます。

「田舎そば」は、黒っぽい色をしています。
昔から民家では、そばを殻ごと粉にして、篩(ふるい)である程度殻を取り除いたものを使っていました。太くて固めの麺で、そば殻も挽き込むことから、星と呼ばれる黒い粒(蕎麦殻)の入った、色の黒いそばで、そばの香りの際立ったそばになります。長野県などの山村では、よく食べられています。
このようにそばの実の外皮をつけたまま挽(ひ)いてできた粉を「挽きぐるみ」と言います「田舎そば」はこのようにそば殻も挽き込んだ「挽きぐるみ」のそば粉を利用して作ったそばを意味します。

のぼり旗の「田舎そば」の文字は、果たして本当の「田舎そば」なのでしょうか?
真偽を見極める眼が必要なのではないかと思います。