植物学的に見た「ソバ」

植物学的に述べると、ソバ(fagopyrum esculentum)は、植物界(Plantae)・被子植物門(Magnoliophyta)・双子葉植物綱(Magnoliopsida)・タデ目(Polygonales)・タデ科 (Polygonaceae)に属します。

ダテ科の植物は、北半球に約40属1,000種類が分布しているとされ、日本にも約60種類が自生しています。多くは草本ですが、まれに低木になるものもあります。花は小形で、集合して穂状(すいじょう 穂のような形)、総状(そうじょう ふさのような形)もしくは円錐花序(えんすいかじょ 全体が円錐形になるもの)をつくります。

ダテ科に「ソバ」とつく植物は、タデ属(Persicaria)に属するミゾソバ、ソバカズラ属(Fallopia)に属するソバカズラなどもありますが、このうち「ソバ属(Fagopyrum)」に属するソバは、いわゆるわたしたちがよく知っている普通種のソバ(F,tesculentum)と、ダッタンソバ(F,tataricum)と、シャクチリソバ((F.cymosum)の3種類があります。

3種のうち、シャクチリソバは、別名宿根そば(宿根種)とも言われ、多年草で、冬は地上部の茎葉は枯れてしまいますが、春になると地下の根茎から次々と新しい芽が出て一面に広がっていきます。明治の頃中国から薬草として導入されてきましたが、若葉が野菜として食用になり、葉を食べることから「野菜そば」とも呼ばれています。

ですので、いわゆるそばの原材料として、実を用いるのは、普通種と、ダッタンソバ(ダッタン種)のそばの2種類になります。

普通種は、日本、ソ連、中国、ヨーロッパ、アメリカ、カナダ、南アメリカ、アフリカなど世界に広く栽培されています。

これに対し、ダッタン種は、中国の雲南省、四川省、チベット自治区、内モンゴル地区、ネパールなどの高度2,000m以上のヒマラヤの山岳地帯で栽培されています。ダッタンそばは、わたしたちが普段食べているそばよりもさらに気候の厳しい土地でも育ったそばと言えます。
中世の頃ダッタン人(モンゴル系遊牧民族)によってヨーロッパにもたらされたことから、この名がついています。

ダッタンそばは、独特な強い苦味があるから「苦そば」とも呼ばれ、これに対し、普段わたしたちが食べている普通種のそばは匂いと味が甘いので「甘そば」、場合により「甜蕎(苡)(てんきょう)」などとも呼ばれています。

普通種の実はブナの実に似た三角形状の突起型をしていますが、ダッタン種の実は角張ったところが少なく、表面はザラザラしています。粒も小さく、むしろ小麦の種実に似ています。
そばの実の重さは軽く、粒の大きな普通種でも1,000粒でも16~35g程度しかないとされています。

ダッタン種は淡緑色の花をつけ、そばの実の色は黄色になります。ダッタンそばの実に含まれるこの黄色の色素は、製粉設備まで黄色く染めてしまうほど、かなり強烈な色をしています。
これに対し、普通種は、わたしたとがよく知っているように白い花を咲かせ、実の色は茶色ないし黒褐色になります。

色も形状も大きく異なるダッタン種と普通種ですが、宿根種の多年草に対し、どちらも一年草です。
ダッタン種が普通種と異なるのは、ダッタン種は自家受粉できることにあります。いわゆる1つの花の中で花粉を柱頭に着けてくれることから、虫や風による受粉を待つことなく、実らせることができることにあります。そうしたことから、ダッタン種は生産性の高いそばということができます。その一方で、違う花で受粉することがないので、遺伝子の多様化が計りにくいことから、環境の変化に対応しにくという欠点があげられます。

これに対し、普通種の受粉は、蜜を吸いにきた虫が花粉を運んでくれるのを待つことになります。普通種の自家受粉できない理由は花形にあり、おしべとめしべが離れているからだとされています。受粉しても、花粉からのびる管が、めしべの胚乳まで届かないことにあるとされています。

朝7時ぐらいに咲いたそばの花は、1時間後にはやくを開いて花粉を外に出します。するとちょうどそのころ蜜を集めに来ていた虫の体に花粉がくっつき、虫によって花から花へと運ばれていくのだそうです。こうしてそば畑に集まってきた50種類ぐらいの虫も、やがて時間が経つと、どこかへ飛んでいってしまうのだそうです。そばはまた、ミツバチを集める蜜源食物としても利用されてきました。

ちなみにダッタン種も普通種も、播種(はしゅ)から収穫までの期間は短く、普通種では2~3カ月、ダッタン種ではさらに短く40〜55日とされています。

普通種ではこの播種(はしゅ)と収穫の時期により、「夏そば」と言われるものと「秋そば」と言われるものの2つがあります。
「夏そば」の種まきは、九州の4月上旬から北海道の6月下旬までの間、「秋そば」の種まきは、北海道の6月上旬から九州の9月上旬までの間とされています。