日本のそばの栽培地

国内でのそばの栽培は、昭和52年(1977年)以降増加に転じてから、今日にいたるまで増加傾向で推移しています。
かつては、救荒作物として、中山間地等の傾斜地など条件のよくない土地に、小規模で栽培されていましたが、近年は転作田を中心とした平坦部でも生産が拡大し、機械化による栽培も普及しています。

そばは、タデ科ソバ属の1年草で、収穫までの日数が短いことや、乾燥に強く吸肥性にも優れていることから、救荒作物として普及・定着し、幅広い地域で栽培されています。また、麺として食されるだけではなく、菓子の材料や焼酎の原料としても利用されています。最近では、そば粉を使い、個人でそば打ちを楽しんでいる人も数十万人に達するとも言われています。
現在日本におけるそばの需要は年間15万t(トン)前後と言われています。年越しそばの風習により、年末に突出した需要のピークがあるほか、あっさりとした、冷たいそばが好まれる7~8月の夏季に需要が多くなっています。

日本で需要の多いそばですが、そばの国内収穫量は32,000t(平成23年度では)。何と国内自給率は20%強という低さです。そばは日本で穫れるものだから、白米と同じように国産と思っていると、大半が輸入で賄われているというのですから、思わず驚いてしまいます。

さて国内自給率の低いそばですが、そうした日本の中で、そばの収穫量が多い都道府県は、どこだと思われますか?

都会人の感覚で言えば、田舎そばで有名な山形県とか、更科(さらしな)そばで有名な長野県を想像してしまいます。
しかし、実は、1番多いのは北海道です。収穫量、作付面積ともに他のどの都道府県よりも、だんとつで多くなっています。
平成23年度の都道府県別の統計では、北海道が作付面積、生産量ともに1位で、作付面積は19,300ha、収穫量は11,400tとなっています。
次いで、作付面積で言えば山形、福井、福島、長野の順になっていて、収穫量で言えば、福島、山形、長野、茨城、福井の順になっています(「農林水産省統計」農林水産省大臣官房統計局平成24年1月23日公表)

平成23年産そば収穫量作付面積

なぜ、寒い地方の北海道が蕎麦の収穫量が1番多いのでしょうか?
北海道は、亜寒帯湿潤気候で、夏場の平均気温が 25℃を超えない冷涼な気候は、そばの生育にとても適しています。
それだけではなく、そばは、昼と夜の寒暖の差がある場所で育つと、甘味がぐんと増し質のよいでんぷんが作られるとされています。このでんぷん質がそばの風味・食感をよくし、そばをおいしくするとされています。

北海道・道北の上川に位置する幌加内(ほろかない)は、日本一の生産量を誇るそばの町ですが、東西を山に囲まれている盆地で、昼夜で大きな寒暖差を持ちます。特にそばの育つ8月から9月にかけて顕著になります。加えて、朝靄が多いのも、そばの生育に適した地とされています。
霜には弱いとされているそばにとって、霧や靄は、霜の発生しやすい自然条件を緩和し、良質なそばを育てる助けになるとされています。

福島県南会津の会津盆地も標高650メートル~900メートルの山間高冷地で、昼夜の温度差が大きく、同じように夜霧が発生する気候風土の中で、そばが栽培されています。8月下旬に、淡く白い花が咲き始めた猿楽台地は、広い大地に一面まるで白いじゅうたんを敷きつめたかのような景観になります。

同様に長野県信濃町の野尻湖の周辺地域も、山裾の標高500~700mの高原地帯で、昼夜の気温差が大きく、朝夕に発生しやすい場所です。昼夜の激しい気温差の中で、朝夕に発生する霧に包まれて育ったそばは「霧下(きりした)そば」と呼ばれ、そば愛好家に親しまれています。霧下そばは鮮やかな緑黄色で、香りも高く、粘力があり、加えて栄養価も高いと言われています。

一方においてそばは、南の鹿児島県でも栽培されています。
鹿児島では畑地の輪作作物として,水田では転作作物として作付けされ、平成3年~7年までは、北海道に次ぎ全国第2位の生産量を誇っていました。国内でのそばの作付面積は増加傾向のなか、鹿児島県では減少傾向とは言え、依然として全国で第9位と高い収穫量に、第11位の作付面積となっています(平成23年)。
北の北海道で盛んなそば栽培が南の鹿児島でも可能なことを不思議に感じる人もいるかもしれませんが、そばは、土壌の乾燥に強く、吸肥性が高いことなど、生育の条件にあまり影響されないために、火山灰地や開墾地でも栽培が可能な作物と言えます。

また、そばは、あまり土地の栄養が多すぎると、ひょろ長いそばができて、実が獲れにくくなるとされています。植物の栄養源の痩せた土地がそば 栽培には適しているとも言われています。
救荒作物の1つとして利用されてきた理由には、このように気候に対する適応性の幅も広く、荒涼とした土地でもよく育つこともあります。
また、種播種後4~5日で発芽し、30~35日で開化最盛期を迎え、70~80日で収穫時期を迎え、種播き(播種)から収穫までの期間が、稲、麦などに比べ2~3カ月と非常に短いことも、救荒作物として適していると言えます。

日本においてそばの栽培は、水田での栽培の面積と、生産調整の動きとほぼリンクしていると言われ、水田では、多くの転作作物として作付けされてきました。
米の穫れない地域では、そばは大切な主食だったと言われています。

シラス台地と呼ばれる火山灰が広がる鹿児島県は、米を育てるにはあまり適さないの土壌(どじょう)でした。そこで救荒作物としてそばを栽培しながら、さつまいもやタバコ、お茶、サトウキビなどの暖かい気候を利用した農作物の栽培研究を進めてきたことが、そばの高い生産高を誇ってきた理由となっています。
さらに、多くの火山群からなる霧島連峰を望む地域もまた、霧深い水郷の盆地で、昼夜の温度差が著しい気候の土地とされています。

ちなみに1年草のそばには、生態のタイプとして早生の「夏そば」と、晩生の「秋そば」とがあり、播種と収穫の時期は、それぞれの地域によって異なります。

「夏そば」については、播種(はしゅ)は九州の4月上旬から北海道の6月下旬まで、収穫は九州の6月中旬から北海道の8月中旬までとされ、「秋そば」については、播種は北海道の6月上旬から九州の9月上旬まで、収穫は北海道の9月中旬から九州の11月中旬までとされています。